黒字なのに会社のお金が増えないのはなぜ?試算表より前に確認すべきこと
「決算は黒字なのに、なぜ会社のお金が増えないのか」
中小企業の経営相談では、こうした悩みを聞くことがあります。
利益が出ていても、売掛金や在庫が増えれば現金は減ります。借入金の元本を返済しても、その返済額がそのまま損益計算書の費用になるわけではありません。設備投資や税金など、大きな資金流出が重なることもあります。
そのため、「黒字であること」と「会社のお金が増えていること」は同じではありません。
ただし、私が実際に会社を見るときは、いきなり資金繰り表や試算表から始めるわけではありません。
むしろ、そのもっと前から見ます。
数字を分析する前に、その数字がどのように作られたのかを確認する。
25年以上、中小企業の再生・経営財務支援に携わる中で、私はこの順番をとても大切にしています。
最初に確認するのは、証憑と元帳です
私が最初に確認するのは、領収書や請求書、預金の動き、現金の動き、売掛金、買掛金、借入関係などの証憑と元帳です。
証憑が揃っていなければ、まず探して揃えるところから始めます。
そして、一つ一つ内容を確認しながら会計記帳を行い、必要な修正をしていきます。
例えば、取引先が振込手数料を差し引いて入金しているのに、その差額を正しく処理していなければ、売掛金に少額の残高が残ります。
それが毎月積み重なると、帳簿残高と実態が少しずつ合わなくなっていきます。
こうした場合には、過去にどのような処理をしてきたのかまで確認し、今後どのように処理していくのかも整理します。
だから私は、
数字を分析する前に、その数字がどのように作られたのかを見る。
ここをとても大切にしています。
試算表は「出たから使える」のではありません
証憑と元帳を確認し、会計記帳を修正して、ようやく月次試算表として整えていきます。
ただし、試算表が出来上がったからといって、私はすぐにその数字を信用するわけではありません。
重要なのは、
その数字と会社の実態が一致しているか。
現預金間の資金移動は合っているか。
売掛金・買掛金の残高は正しいか。
借入残高は合っているか。
帳簿上の現金残高と、実際に存在する現金残高は一致しているか。
不自然に残っている勘定科目はないか。
私は、試算表に数字が並んでいることよりも、その数字が実態を表しているかどうかを重視します。
数字だけが整っていても、実態とズレていれば、そこから先の資金繰り分析や経営判断までズレてしまうからです。
B/Sは帳簿残高を読むだけではなく、実態を確かめるもの
月次試算表を確認するとき、私が特に注意して見るのが、貸付金、未収入金、仮受金、未払金、仮払金、立替金などの科目です。
これらの科目そのものが悪いわけではありません。
ただ、内容や発生原因が曖昧なまま残りやすく、会社の実態を分かりにくくしてしまうことがあります。
また、私の実務経験上、不適切な会計処理や粉飾計上の調整に使われやすい科目でもあります。
だから私は、これらを
「どういう内容のものなのかを必ず確認すべき科目」
と考えています。
誰に対するものなのか。
なぜ発生したのか。
いつから残っているのか。
回収できるのか。
支払うべきものなのか。
そこまで確認して、初めて数字の意味が分かります。
棚卸資産についても同じです。
帳簿には商品として載っていても、本当にその在庫が存在するのか。売れるものなのか。不良在庫になっていないか。
こうした確認を重ねながら、私はB/Sの各科目を、単なる帳簿残高ではなく実態として確認していきます。

図:証憑・元帳の確認から、会社の診断・資金繰り把握・社長への説明までの流れ
TAISEI企業行動力診断で会社全体を診断する
月次試算表まで信頼できる状態に整ったら、TAISEI企業行動力診断の資料を作成します。
※注:TAISEI企業行動力診断とは、月次試算表等をもとに、会社の経営・財務状態を複数の視点から総合的に確認し、課題や改善の方向性を整理するための診断資料です。
一つの財務指標だけを見るのではなく、
会社が現在どういう状態なのか。
どこに問題があるのか。
今後、何を優先して改善するべきなのか。
それを総合的に把握していきます。
そして、その診断資料の最終頁には、期中12か月の実績資金繰り表を載せています。
実績資金繰り表は、ここまで整えてきた現預金元帳を基礎にして、基本的には期首から期末まで毎月更新していきます。
ただし私の場合は、
資金繰り表を作る前に、その元になる会計データを信用していいのかを確認する。
この順番をとても重視しています。
お金の動きは「点」ではなく「流れ」で見る
さらに、帳簿上の現預金残高と、実際に存在する現預金残高を照合します。
そのうえで、月初と月末の現預金残高が毎月どのように変化してきたのかを、数字と棒グラフで確認できるようにしています。
例えば、今月末の預金残高が1,000万円だったとします。
しかし、
半年前には2,000万円あり、毎月減り続けた結果の1,000万円なのか。
一度500万円まで落ち込んだ後、回復してきた1,000万円なのか。
この二つでは、同じ1,000万円でも意味がまったく違います。
だから私は、
現預金を一時点の金額だけではなく、月次の流れとして見る。
ここを重視しています。
現預金残高の推移を時系列で見ることで、資金が減少傾向にあるのか、回復しているのか、あるいは特定の月に大きな変動があるのかを把握しやすくなります。
「黒字なのにお金が増えない」原因は、一つではありません
会社のお金が増えない理由は、一つではありません。
売上が伸びていても、売掛金の回収が遅れれば現金は増えません。
在庫が増えれば、その分だけ資金は在庫として寝ます。
借入金の元本返済は、損益計算書上の費用ではありませんが、実際には現金が出ていきます。
設備投資、税金、社会保険料、賞与など、大きな支払いが重なることもあります。
また、社長個人への貸付や私的な支出、使途がはっきりしない資金流出が積み重なっているケースもあります。
つまり、損益計算書だけを見ていても、会社のお金がなぜ増えないのかは分からないことがあります。
損益だけではなく、売掛金、買掛金、在庫、借入金、現預金、そして資金の使われ方まで含めて、会社全体を見ていく必要があります。
お金を稼ぐことと、お金を管理することは違います
私の実務経験では、中小企業の社長には、売上をつくる力や仕事を取ってくる力は非常に強い一方で、会社のお金を管理することを苦手としている方も少なくありません。
これは、経営者としての能力が低いという意味ではありません。
むしろ、営業、現場、人材、取引先対応など、会社を動かすことに全力を注いできた結果、お金の管理が後回しになっていることがあります。
ただし、会社のお金と社長個人のお金を混同してしまうと、経営判断は一気に難しくなります。
会社にいくら残っているのか。
何に使ったのか。
今後いくら必要なのか。
その判断が曖昧になってしまうからです。
私が特に大切だと考えているのは、
自分個人の欲と、会社・事業のお金を混同しないこと。
会社のお金を大切に扱うことは、単なる経理の問題ではなく、経営そのものだと考えています。
私は、
『経営は、お金と社長の為人が全て。』
と考えています。
資金繰り表を作ることが目的ではありません
私にとって、試算表や資金繰り表、各種の診断資料を作ること自体が目的ではありません。
本当に大切なのは、
「今、自分の会社で何が起きているのか」を社長自身が理解すること。
そして、
「では、これから何を変えるのか」を判断し、実際に行動すること。
数字は、会社を評価するためだけのものではありません。
これからの経営判断に使うためのものです。
だからこそ、その前提となる会計データが正しく、会社の実態と一致していることが重要になります。
私は、いきなり出来上がった試算表だけを見て会社を判断するのではなく、
証憑と元帳から会社を見ます。
そこから試算表を整え、会社全体を診断し、現預金の動きと資金繰りを確認する。
そして最後は、数字を社長と一緒に見ながら、今後どこを改善していくのかを考えていきます。
「黒字なのに、なぜお金が増えないのか」
もしそう感じているなら、損益計算書だけではなく、まずその数字がどのように作られているのか。そして、会社のお金が実際にどのように動いているのかを確認してみてください。
吉村太一
中小企業再生・経営財務コンサルタント
会社とお金のまるごと支援所
会社のお金や資金繰り、銀行融資、経営改善について、今後も中小企業の現場で実際に見てきたことをもとにお伝えしていきます。
「会社の数字は出ているけれど、本当にこの状態で大丈夫なのか」
そんな疑問を感じている経営者の方に、少しでも経営判断のヒントになれば幸いです。
参考資料(確認日:2026年9月12日)
1.中小企業基盤整備機構 J-Net21
「黒字倒産とはどのようなものでしょうか?また、そうならないためにはどうしたらよいのでしょうか?」
2.中小企業基盤整備機構 J-Net21
「資金繰り表って何ですか?また、どのようにして作成するのですか?」